ミャンマー動乱 日本企業がとるべき今後の 経営方針とは?

ミャンマー

記事更新日:2021/05/06

ミャンマー動乱 日本企業がとるべき今後の 経営方針とは?

2月1日のクーデター以降、8日までに、治安部隊の発砲などで死亡した人は、614人に上る。実際はこれよりも多いとされている。 

(参考:NHK WEB)

 こんにちは。multibook編集部です。ミャンマー国軍による、抗議デモ隊への弾圧が苛烈を極め、状勢は混乱を極めています。弊社マルチブックも、ミャンマーに拠点を置くパートナー会社様との共催Webセミナーが延期になったりと僅かではありますが影響を受けております。

 このクーデターによる経済への影響はどのようなものなのでしょうか。また、日本企業への影響はどのくらいでしょうか。詳しく解説していきます。

デモの概要

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 事の発端は2021年2月1日にミャンマーにおいて同国国軍が企図したクーデターです。

 この結果、ミンスエ第一副大統領が暫定大統領となり、非常事態宣言を発令し、国軍が全権を掌握しました。また、ミン・アウン・フライン国軍総司令官に全権力が委譲され、事実上の国家指導者となったことをミャンマー国軍が一方的に宣言しました。

 そして、国民民主連盟(NLD)政権の実質的な指導者であったアウンサンスーチー国家顧問、ウィンミン大統領をはじめとする45人以上が身柄を拘束されました。

 ミャンマー国民は2月6日に民主主義への復帰を求めて抗議デモを開始。特に3月27日、国軍記念日(1945年に抗日武装蜂起が発生した日)を迎えた当日、軍と市民の衝突が激化しました。国内40カ所以上で軍による発砲が行われ、100人以上が死亡しました。

参考:Wikipedia

経済への影響

このクーデターはミャンマーの経済に深刻な影響を及ぼしました。

・輸出入量の激減

商業省の輸出入統計によると、3月6~12日の1週間の輸出額は2億5200万㌦(約280億円)、輸入額は2億5400万㌦と、クーデター前の20年12月~21年1月の週平均に比べそれぞれ3割減少しました。これは税関職員や物流業者のストライキで多数のコンテナが港に滞留していることが原因だそうです。

・カネの流れの停滞

ヤンゴン証券取引所に上場する全6社の合計売買代金は3月31日までの5営業日で1日平均631万チャット(約50万円)にとどまりました。これはクーデター前の1月25~29日と比べると85%少ない結果です。株価指数は3月31日終値で、1月29日に比べ5%低下しました。

・景気の低迷

IHSマークイットが発表した3月のミャンマー製造業購買担当者景気指数(PMI)は27.5で、1月から急落した2月並みの低水準でした。これは、前述の「不服従活動」により、工場での操業が一部停止していることが影響しています。

PMIは企業の景況感の指標で、50を上回ると上向き、50を割り込むと悪化とされます。ミャンマーの2月のPMIはクーデターによる社会・経済的な混乱から、1月の47.8から27.7に急落しています。これは、50前後をつけた他の東南アジア諸国に比べると突出して低い数値です。

・インフレの深刻化

また、インフレも深刻化しています。通貨チャットが急落した影響を受け、対ドル相場は2カ月強で16%下し、特に輸入品を中心にインフレが深刻化しています。

画像:日本経済新聞

ライフラインの停滞も懸念されています。クーデター発生後には国軍が36の病院を占拠し、新型コロナ検査や治療も停止し、さらなる感染拡大への危険性が指摘されています。燃料不足や交通の混乱で食料価格も過去1カ月で2割上昇し、食糧危機の可能性の示唆されています。

経済制裁について

一連のクーデターを受け、各国は主に米国を中心とし国軍の資金源を断つため、ミャンマーへの経済制裁を強めています。

 例えば米通商代表部(USTR)は、米ミャンマー間の貿易・投資枠組み協定「TIFA」を停止したと発表しました。

 また、3月25日には国軍に深く関連するとする国軍系のミャンマー・エコノミック・ホールディングス(MEHL)とミャンマー・エコノミック・コーポレーション(MEC)の2企業に制裁を科しました。2社は米企業との取引が禁じられ、米国にある資産が凍結されます。この2社の傘下には100社以上の企業が存在し、サービス業、金融業や物流業などの幅広いビジネスを手掛けています。

 日本政府の対応は、制裁は実施しない一方でODAの新規供与を当面見送る方針です。制裁は実施しないもの日本は2019年度のODAは有償・無償を合わせると約2000億円にのぼるなど、ミャンマーに対する最大の援助国です。そのため、欧米各国が行う制裁よりも影響力が多いと見られています。

日本企業のミャンマーへの進出状況

JETRO=日本貿易振興機構によると、ミャンマーには去年末の時点で433社の日本企業が進出していて、工業団地の運営や都市開発、通信インフラの整備のほか、自動車や食品、衣類の製造や販売など、多岐に渡りビジネスを展開しています。大手では、丸紅や三菱商事、住友商事、イオン、KDDIなどが進出しています。外務省のホームページによると、去年12月時点でミャンマーには3505人の日本人が在留しています。

人口5000万を超え、経済成長が続くミャンマーは、アジアの「最後のフロンティア」とも呼ばれて注目されていました。

特に、最大都市ヤンゴン近郊に工業団地などを整備したティラワ経済特区は、日本が協力した一大プロジェクトで、ミャンマーとしても外国からの投資を受け入れるための重要な拠点になっています。

日本企業への影響は?

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交通インフラへの影響
 日本とミャンマーを結ぶ交通インフラは混乱を極めています。全日空によると、ミャンマーの最大都市ヤンゴンの空港が閉鎖されたため、日本とミャンマーを結ぶ唯一の直行便の欠航が決まりました。全日空は、成田空港とヤンゴンを結ぶ便の今後の運航は未定だとしていて、最新の情報を確認するよう呼びかけています。

ミャンマーに事業を展開する日系企業の影響
 現地に進出する日本企業のビジネスも影響を被っています。KDDIは現地駐在の出向者などに自宅待機を指示し、状況次第では帰国も検討しています。大成建設やユニ・チャームは現地拠点を一時閉鎖し、従業員の安全確保に努めるとしています。スズキも工場の稼働を一時休止しました。また、トヨタ自動車も新工場の建設を進めていて、2月中に稼働を開始する計画でしたが、延期となりました。

軍資企業への投資のリスク

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 このクーデターによる経済への影響を語るうえで重要になるのは治安面の問題にとどまりません。ミャンマー国軍との資本関係にあるか、つまり「軍資企業とのかかわりはないか」が重要な焦点になるのです。これは一見日本企業には関係のないように思えますが、そうではありません。

 例えば、運用資産が日本円にして130兆円以上、世界最大の政府系ファンドを運営するノルウェーの中央銀行は、「キリンホールディングス」を監視リストに入れることを決定しました。つまり、キリンホールディングスの株式を放出する可能性を示唆したのです。日本では知らない人はいない大手ビールメーカーがなぜこのような事態になってしまったのでしょう。

理由は、キリンがミャンマー国軍との資本関係にあることを指摘されたからです。キリンは2015年に現地トップシェアを誇る「ミャンマーブルワリー」を買収し、約80%もの驚異的な市場シェアを獲得しました。

 しかし、2月1日のクーデターで事態は一変します。問題となったのはミャンマーブルワリーの株式の49%を保有する「ミャンマー・エコノミック・ホールディングス」です。この企業は軍の関係者の年金の運用などをおこなう、軍との関係をもつ企業でした。

 キリンホールディングスはこの事態をうけ2月5日、国軍系とされるミャンマー企業「ミャンマー・エコノミック・ホールディングス」との合弁を解消すると発表したものの、国際的な信用を完全に回復できたわけではありません。ノルウェーの中央銀行はこの発表をうけても、キリンの株式を放出する可能性を撤回したわけではないからです。

今後の懸念事項

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 今後懸念されることとしては、ミャンマーの中国への依存です。ミャンマーは今回のクーデター以外にも、イスラム教徒の少数民族「ロヒンギャ」に対する人権侵害問題などにより国際社会から批判を受けました。これにより国際社会はミャンマーへの投資に消極的になりましたが、中国は逆にミャンマーに資源分野を中心に積極的に投資を行いました。

 今回も米国をはじめとする投資が撤退する中、ロヒンギャ問題の時のように中国がミャンマーへの経済介入を促進する可能性は多くあります。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、同国による19年の輸出と輸入に占める中国の割合はそれぞれ31.7%、34.7%でした。19年段階で東南アジア諸国のなかで輸出と輸入の双方で中国の割合が3割を超えるのはミャンマーしかいません。今回の制裁を受け、ミャンマーがさらに中国への依存を強めてしまう可能性も看過できません。

今後、日本企業が対応すべきこととは??

 今回のミャンマーのデモにより、一時的に通信障害が発生し、日本本社の社員が現地社員との連絡を一時的に取れなくなる事態が発生しました。このようなデモや自然災害は最悪の場合、企業のデータが消失する恐れがあります。

そのため、データをクラウドにアップするなどし、あらゆる事業状況を可視化することが必要になります。multibookでは、海外拠点向けクラウド型会計ERPソフト事業を展開しており、カントリーリスク(これについては次回以降解説します)が大きい東南アジアに最適なERPソフトを展開しております。また、ミャンマー語をはじめとする11言語に対応しており、言語の壁による海外拠点経営のお困りごとを解決いたします。詳しくは以下のURLをご確認ください。

《参考文献》

日本経済新聞 2021年4月11日 朝刊「ミャンマー、インフレ深刻」
日本経済新聞 2021年3月31日 17:40「ミャンマー国軍支援企業への投資見直しを 米長官」
日本経済新聞 2021年4月1日 11:00 [有料会員限定記事]「ミャンマー、ヒト・モノ・カネ停滞 クーデター2カ月」
日本経済新聞 2021年4月1日 12:30「ミャンマー、景況感の低迷続く 操業停止が影響」
NHK WEB ビジネス特集「無関係ではいられない?軍系企業リスク」2021年3月15日 14時37分更新(最終閲覧日2021年4月16日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210315/k10012912421000.html

   

この記事を書いた人

マルチブック編集部

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